(公財)日本ピアノ教育連盟紀要=JPTA bulletin 採択のお知らせ

私は2018年の秋にピアニストにとっては致命的とも呼ばれる難病「局所性ジストニア」を発症しました。発症当時、主治医は両親に「私が再び演奏家として復帰するのは絶望的な状態にあること、今までのようにピアノを続けることはまず不可能であること、それ以前の問題で血管が浮き出て氷のように冷たくなっていた両手の酷い痙攣と麻痺の発作が深刻化すれば完全なる運動麻痺に陥るのも時間の問題だ」と言い渡したほど深刻な事態でした。


鉛筆で文字を書く動作、鍵やドアノブを回す動作、スプーンやフォークを使う「当たり前」の動作を失っていただけではなく、窄んでしまった手を自力で拡げる力さえも殆ど残っていなかったので、自分でも「ピアノが〜」なんて悠長なことを言ってる場合では無いということは百も承知でした。

それでも「絶対にここで諦めたくない、逃げたくない。今までのように弾けなくてもいい。これまでの人生のほとんどをピアノと共に歩んできたのに、そう簡単に捨てられるわけがない。無理かどうかは未来の私が教えてくれる。だから、この壁を越えた先の新しい自分を知りたい。そしてそこから生まれる音楽を持ってもう一度舞台で演奏をしたい」という自身の強い意思から、医師も予測のつかない副作用のリスクを覚悟の上で特殊な治療と投薬治療を開始し、入院や通院、リハビリを繰り返しながら現在に至ります。

私はジストニアの他に延髄の神経難病やリウマチという指定難病も罹患しているため、変形してしまった両手第4指にはオーバルエイトと呼ばれる指装具は必要なものの、発症から数年の年月を経て、現在はこうした試みと治療によって両手での(主に8本指)演奏活動を再開しています。


私の大学院生活はこの病気をどのように受け入れて付き合っていくか?というところから始まり、気が狂いそうなほどの孤独と混乱、そして自分の精神力との闘いでしたが、"失ったものを数えるより残されたものの中から出来ることをひとつずつ見つけていきたい"という考えを大事にして取り組んだ実体験を基に、ジストニアの発症原因や陥りやすい練習方法、発症を未然に防ぐ方法、奏法の再構築、新しい練習方法等の研究内容を凝縮し、スクリャービンの作品と関連させたテーマで執筆しました。


「局所性ジストニア」

未だにこの病名すら知らないという人も少なくないだけに、大切な「予兆」を見逃すばかりか、私のようにそれと気付かぬまま症状を悪化させてしまうことも多々あります。ジストニアは初期段階の「予兆」を見逃さないことで、解決策を練り、症状を緩和・解消することも可能と言えます。この論文を機に一人でも多くの方にジストニアについて知って頂けますと幸甚です。

発症してしまっては取り返しのつかない病。大切な「予兆」に気付き、発症を未然に防げる人がひとりでも増えますように...


【論題】
A. N. スクリャービン《左手のための前奏曲と夜想曲》作品9 : 局所性ジストニアのためのピアノ演奏と音楽表現の視点から

〜A. N. Scriabin "Prelude and Nocturne for the Left Hand Op. 9" : Perspectives on Piano Performance and Musical Expressions with Focal Dystonia symptoms〜


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【追記】
お世話になった門下の大先輩のブログ中でもご紹介いただきました🦋📖ありがとうございます!

♪演奏動画はコチラ
1.前奏曲
2.夜想曲

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